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理工学部の人と研究 vol.1

 “ 省エネルギー” をキーワードに複雑多様な磁気の世界を読み解く           【藤原 耕二 理工学部 電気工学科 教授】

  

 

バーチャルの三次元モデルで次世代モータの性能をシミュレーション

 私たちが豊かで快適な生活を送る上で、欠かすことができない電気電子機器。藤原耕二教授が所属する電気機器研究室では、“省エネルギー”をキーワードとした社会性の高い研究に取り組んでいる。
 その代表的事例が、電気自動車や鉄道、エアコンなどに用いられるモータの高効率化に関するシミュレーション解析だ。モータの中には、コイルで作られた磁力線を集めて通りやすくする「鉄芯」と呼ばれる主に電磁鋼板で構成された部品が組み込まれている。磁気の世界には、電気の世界の電圧に対応する「磁束密度(B )」と、電流に対応する「磁界の強さ(H )」が存在する。磁界の強さが同じでも、材料がどれだけ磁化されやすいかを表す透磁率(μ)に比例して磁束密度は変化する(B=μH )。磁束密度が高いほど、発生する力は強くなることから、「モータの高効率化のためには、いかに材料特性を理解し、活かすかが重要になっています」。
 モータは、身の回りのさまざまな分野で活用されている。藤原教授のもとには、総合電機メーカや自動車メーカをはじめ、多岐にわたる企業から産学連携の依頼がきている。例えば、小形化・軽量化のために、鉄芯に穴開けや切削などの加工を施す場合があるが、磁力線がその部分を通りにくくなり、エネルギーロスが生じる可能性がある。どんな形状や大きさにすれば、損失は少なくなるのか? また、一口に鉄芯と言っても、それを構成する電磁鋼板には厚さが0.1ミリ~0.5ミリの種々の鋼板がある上に、同じ厚さでも損失が異なり、さまざまなグレードに分かれている。コストや工程を掛けても、材料を変える価値があるのか? 一つひとつ実際に試作して、その性能をすべて確かめる訳にはいかない。藤原教授は、有限要素法と呼ばれる解析手法を用いてコンピュータ上に三次元モデルを構築し、独自開発の数値シミュレーションシステムを駆使して最適設計を行っている。「社会的ニーズは高まっているが、材料特性のモデリングを含めてシミュレーションが可能な大学は少ない。同志社大学が価値を発揮できる分野だと思います」と強調する。

 

企業ニーズに応じた評価システムを確立大学研究機関の公正な“眼”に期待大

 藤原教授の産官学連携の実績はまだまだある。JAXA(独立行政法人宇宙航空研究開発機構)関連の共同研究では、JAXAの敷地内に設置された人工衛星の残留磁気評価施設周辺における地磁気の擾乱について、シミュレーション解析を行った(図1)。この擾乱を正確に把握していなければ、衛星に残留する磁気量を精度良く見積もることができない。宇宙には膨大な量の磁場が存在するため、衛星の残留磁気の把握が十分でないと、相互作用によって予想外の力が発生し、どこか遠くに弾かれてしまう。評価施設から数百メートル離れたところの鉄骨構造建屋に起因する地磁気の擾乱を算出し、それに基づいて高精度に残留磁気を求めるための試験条件を洗い出した。「私たちの活躍の範囲は、電気電子機器の世界から宇宙まで幅広く広がっています」と笑みをこぼす。
 シミュレーションによる解析だけでなく、実測評価、例えば鉄鋼メーカなどが開発した磁性材料の性能や品質を測定・評価する取組も積極的に行っている。「研究室に持ち込まれた試験片に合わせて、オーダメイドで測定システムを作ることもあります」。藤原教授は以前、ある磁性材料の磁気特性を測定するために、企業ニーズに応じて独自に試験器を開発した。一方向だけ測定できる市販器とは異なり、材料のさまざまな方向の磁気特性(異方性)を測定できることが特徴で、これまでに複数の企業に試験器の提供や技術供与を行うなど成果を挙げたという。今、鉄鋼メーカは競うようにして高性能・高品質な材料開発を行っている。本当に、それらの材料が社会的に信頼できるものなのか? 公正な判断をするために、大学研究機関の“眼”が改めてクローズアップされている。

持続可能な社会実現に向けて太陽光発電の効率化の限界に挑む

  持続可能な社会の実現に向けて、国が普及を進めている太陽光発電システム。しかし、設置後、経年劣化により長期的には発電量が低下する可能性がある。電気機器研究室では、15年以上前から本学屋上に太陽電池パネルを設置し、JET(一般財団法人電気安全環境研究所)や日本大学と連携しながら、経年変化で発電量がどのように変化するのか追跡調査を行っている。太陽電池モジュールの特性は年々向上しているが、モジュールの一部が故障して交換が必要なとき、新旧のモジュールが混在すると負荷がアンバランスになり、適正な発電量が確保できなくなる可能性があるという(図2)。「現在、太陽光発電システムには明確な規格がありません。どういう使い方をすれば品質を保つことができるのか、国際的なスタンダード作りを視野に入れています」。
 もう一つ、太陽光で発電した電気(直流)を家庭で使うためには、パワーコンディショナと呼ばれる装置で交流に変換する必要がある。例えば数キロワットの発電システムなら、パワーコンディショナの主要部品であるリアクトルの鉄芯で生じる損失はわずか数ワット、0.1%程度に過ぎないという。しかし、「今、この部分の高効率化をどうするか、しのぎを削って市場開発が行われています」。藤原教授は複数のメーカから依頼を受け、パワーコンディショナ用リアクトルの鉄芯材料や形状、さらにさまざまな回路方式を検討して、最もロスの少ない変換システムの提案を行っている。
 「“産”のスピードに対応する力が必要」と藤原教授。特に、電気電子の世界では新しい発想や技術がどんどんと生まれている。今後、ますます省エネルギーのニーズが高まることが予想される中、研究の一歩その先にある未来を見つめる藤原教授の取組は、これからも産業界の発展と私たちの暮らしを支え続けてくれるに違いない。

藤原 耕二 理工学部 電気工学科 教授

磁気応用技術、その解析・測定などの分野における第一人者。省エネルギーに対する社会的ニーズが高まる中、産官学連携の実績は群を抜く。特に、産との付合いが多いことから、市場のスピードを意識した対応を常に心掛ける。大手造船メーカや国立大学を経て、6年半前に岡山県から同志社大学に単身赴任。スペクトルがかなり広い私学の学生に対する教育を楽しんでいる。趣味は特にないが、しいて言うなら実益を兼ねた料理とのこと。「研究と同じで、料理の世界にも、便利な素材や道具、料理法があるということに気付いた」と感心する。


同志社大学リエゾンオフィスニューズレター「LIAISON」 vol.39 掲載