こちらに共通ヘッダが追加されます。

理工学部の人と研究 vol.2

          産業機械の摩擦を低減する省エネナノ技術開発             【理工学部エネルギー機械工学科 平山 朋子 准教授】

   
 

 潤滑油を任意の場所へ!金属の表面テクスチャーをモデリング

一般に、表面がつるつるしたものは滑りやすく、ざらざらしたものは滑りにくい…と思うかもしれない。摩擦の大きさを表す一つの指標に“摩擦係数”があるが、実はあまりにつるつるした表面は物体同士が接触する面が広くなるため、かえって摩擦係数が大きくなってしまうという。例えば、しゃもじの表面にはたくさんのディンプル(くぼみ)がつけられているが、これは表面の吸着力を少なくして、ご飯を引っ付きにくくしているからだ。「つまり、摩擦を減らすには、適正な表面設計がとても大切です」と話すのは、理工学部エネルギー機械工学科の平山朋子准教授。エンジン、チェーン、ピストン、シャフト、プロペラ…、機械部品がこすれ合う摺動面(しゅうどうめん)の摩擦抵抗を少なくして、エネルギーのロスをなくそうという省エネ研究に取り組んでいる。自動車メーカーなど様々な企業との共同研究も多い。

では、適正な表面テクスチャーとはどのようなものか? 一つは、金属と金属の接触面に潤滑油を集めて機械の滑りを良くするという方法。「狭い隙間に途切れることなく油が流れ込むような周期構造を作れないでしょうか」。平山准教授はレーザー加工技術を使って、深さ200nm(ナノメートル)の溝を数百ナノメートルの間隔でV字型に並べたテクスチャーを試作し、摺動面の摩擦がどのように変化するかを研究している。一口に溝と言っても、ストライプ状のものやドット状のもの、格子状のものまで、形状の選択肢はたくさんある。また、溝の形が決まっても、その深さが大きすぎると、必要とする量以上の油が流れて、むしろ流速が遅くなってしまうという。「それぞれの機械の動きの特徴に応じて、どんな表面テクスチャーが適切なのか? その角度や深さ、間隔などを一つひとつ検討しています」と語る。
 

世界初のオリジナル技術 中性子線で目に見えない情報を読み取る
 

せっかく摺動面に油が届いても、例えばハスの葉の表面のように潤滑油を弾いてしまうようでは十分な効果が期待できないだろう。平山准教授はテクスチャー表面に厚さ2~3nmの高分子の被膜を形成して、油をその場にできるだけ留めておくような、濡れ性を高めたコーティング技術の研究開発を行っている。「金属表面を保護することで、ひびや割れを防止して機械寿命を延ばす効果も期待できます」。一般的な機械の摺動面の摩擦係数は、ドライの状態でおよそ0.3程度。表面テクスチャーの工夫とコーティング技術の両方を組み合わせると、0.001のオーダーにまで低減させることができるという。

潤滑油が本当に金属の最表面に吸着しているのか、あるいは最表面のポテンシャルがどのように変化しているか…。金属と金属がこすれ合うわずか数百ナノの界面の様子を確認するのは容易なことではない。「中性子線を使った分析方法を開発しました」。中性子線は他の放射線に比べて透過力が高く、金属でもコンクリートでも透過する特徴を持つ。平山准教授は、茨城県東海村にある大強度陽子加速器施設「J-PARCセンター」の協力を得、摺動面の隙間に中性子を投射し、その反射情報を分析するという世界初の取り組みを行っている。「例えば、油のような揮発性の物質は分子量が低くなっています。こうした最表面のエントロピー情報を読み取ることで、今まで見えなかったものが浮かび上がってきます」。平山准教授は得られた結果を実機にフィードバックし、さらに最適な表面テクスチャーの設計に生かそうと考えている。

金属の摩擦係数を下げる…。一見、その効果はわずかなものに映るかもしれない。しかし、自動車でも家電でもドラスティックな技術が一通り出揃った中で、今後は小さな技術改善の積み重ねで省エネを実現していくことが期待されている。平山准教授の研究に対する社会ニーズはますます高まっていくだろう。
 

侮れない空気の力!超精密位置決めで半導体製造をサポート

例えば、ゲームセンターなどに設置されている「エアホッケー」。空気の力で小さなパック(円盤)を浮かすことで、摩擦抵抗をおよそ10-4まで下げることができるという。「半導体の製造装置にこの技術を応用しています」。ますます高集積化・高機能化する半導体。その製造現場では、決められた位置に基板をぴたりと搬送する技術が求められる。平山准教授らの研究グループが開発を進めているのが、「超精密位置決めアクチュエーター」だ。外部から空気を送り込んで基板を浮かし、さらにその空気の力で目的の位置に搬送しようというもので、その誤差はわずか1nm以下だという。既にプロトタイプによる実証が終了し、現在では製造現場での活用も順次進められている。「空気はクリーンで、潤滑油を流すよりエネルギーロスが少ない。今後、様々な分野で応用が広がっていくでしょう」と笑みをこぼす。

摩擦とは何だろうか? 金属表面に2~3nmの油の吸着層ができるだけで、摩擦係数は10分の1にまで低減されるという。ナノレベルで紡ぎ出される不思議な現象。「そもそも、摩擦はどこから生まれてくるのでしょうか。省エネにつながる研究開発で市場の期待に応えるとともに、こうした根本的な原理についても追求していきたいですね」。目に見えない超微細の世界に、明日の技術革新へと続く無限の可能性が広がっている。

平山 朋子 理工学部 エネルギー機械工学科 准教授 ※職位は取材当時のものです。

主な研究分野は、設計工学・機械機能要素・トライボロジーなど。特に、金属同士がこすれ合う摺動面の摩擦を低減するために、金属の最表面の形状的な設計とエントロピー的な側面の両方からアプローチしている。自動車メーカーなど産学連携も多数。その研究成果は、機械の燃費向上などの実績に結びついている。趣味は、運転すること。仕事でもレジャーでもとにかく車で移動する。北は宮城県、南は佐賀県まで、年間3万キロを走破。「一人で物事を考えるには最高の研究室」と話す。
 
同志社大学リエゾンオフィスニューズレター「LIAISON」 vol.41 掲載