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理工学部の人と研究 vol.4

 マイクロ流体現象を解明し、社会に役立つ応用展開を目指す                         【管径方向分配現象研究センター 塚越 一彦(理工学部教授)】

     
同志社大学理工学部化学システム創成工学科計測分離工学研究室が、世界で初めて見いだしたマイクロ空間内における新たな流体挙動。管径方向分配現象(Tube Radial Distribution Phenomenon :TRDP)と名付けた、従来の研究の定説を覆した発見を、様々な学問領域及び工業化・産業化の視点から幅広く研究し、その遂行を通して研究員や学生の研究活動の高度化・学際化・グローバル化を推進するために2012年7月、「管径方向分配現象研究センター」が発足した。TRDPが同志社大学で見いだされ、同志社大学から世界に情報発信されていることを明確に位置づける役割をも担うセンターの活動内容、主眼とする研究について、センター長の塚越一彦理工学部教授に伺った。
 

管径方向分配現象とは

まず「管径方向分配現象」というものについて説明しておきましょう。私たち計測分離工学研究室が世界で初めて発見した現象ですから、それまでは誰も見たことがないし、もちろん教科書にも載っていません。学会などで説明してもなかなか理解していただけない。そもそも管径方向分配現象研究センターを設立したのは、その概念を世界の研究者に広く知ってもらいたいという意図が大きいのです。

管径方向分配現象とは、100ミクロン以下の極細空間、髪の毛の太さよりも細い空間を流体が流れていく際に起こる現象です。そのマイクロ空間にある種の混合溶液を流し、一定の圧力を加えると、流れの中で液— 液界面が生じるのです。内側の層と外側の層の2つの流れが生まれ、そこに界面が生じる。界面というのは、例えば水と油が交じり合った場合、溶け合わずに2層に分かれる。その境界のことをいうのですが、そこには科学的にいろんな興味深い要素があるのです。新しい反応が起こったり、新しい分子間の配列が起こったりします。その界面がマイクロ空間で生じる。しかもそこには流れがあり、内側と外側に層を作り出す。私たちはこの現象を2009年に計測分離工学研究室で見いだすことに成功しました。それまで誰も作り出すことができなかった現象を作り出した。その意味では特異的な発見であり、間違いなく世界初だと思います。そして、その研究の輪を広げる目的で、多くの方々のご支援のもとに、設立したのが当研究センターです。このマイクロ空間内での新しい流体挙動を管径方向分配現象(TRDP)と名付け、学問的にもまた技術的にも体系化していくことを、当センターでは目指しています。
 

界面の現象解明から機能発現へ

では、どうしてこうした現象を起こすことができるのか、今まで誰も見いだせなかったことがなぜできたのか。その界面の現象を解明することが、現在のセンターの大きな柱になっています。そこでは流体力学や化学、工学などいろんな要素を盛り込んで、どうしてこうした現象が起こるのかを調べています。

一方、この界面を利用してどう機能を発現させて応用面に持っていくかということも研究課題です。私たちは管径方向分配現象の解明と機能発現と言っていますが、解明というのはなぜこういうことが起こるのかを調べること、そして機能発現は応用ということになってきます。応用にはクロマトグラフィーあるいは抽出という分離の手段、あるいは混ぜるという混合法、そして界面を使っての反応という方法があります。現在、クロマトグラフィーはTube Radial DistributionChromatography(TRDC)、抽出はエクストラクションですから、Tube RadialDistribution Extraction(TRDE)、混合はミキシングですから、Tube RadialDistribution Mixing(TRDM)、反応はリアクションということでTube RadialDistribution Reaction(TR DR)と、それぞれ名前を付けて、TRDPを利用した新しい技術開発を進めているところです。
 

 医薬品合成への応用に期待

センター開設当初は管径方向分配現象への理解をより広め、認知度を高めることを目的としていましたが、発見以来50報近くの学術論文を公表し、それらをまとめた総合論文を欧文誌(invited review)と邦文誌に発表しました。昨年9月には「Analytical Sciences」という学術雑誌から「Most Cited Paper Award of Analytical Sciences 2012」を受賞しています。これは2010年から2011年にかけて「Analytical Sciences」に掲載された学術論文の中で、最も多く引用された論文に与えられるものです。こうして徐々に地固めができてきたので、今後は積極的にそれが実際どう使えるのか、応用研究をしながら現象をしっかり押さえるという段階に入っていきます。研究組織を広げながらいろんな先生方と共同で、これまで以上に学際領域だけではなく社会に役立つような研究へと展開できればと思っています。
 
具体的にどんな分野への応用が期待できるのか。さらなる展開の可能性をキーワードで示すと、環境、エネルギー、医学・医療、創薬、新規学問領域、新技術開発ということになろうかと思います。中でも応用の可能性が大きいのが、医薬品の合成です。マイクロ空間の内部を内側と外側の2層に分かれて流れていくわけですから、緊密な溶液を流し、内側と外側の層に分離させ、内側に分配する化学物質だけを選択的に取り出すことが可能になります。従来の抽出とは違う溶媒の分離ができることになるのです。
 
センターの今後の計画としては、2017年3月までの5年間の設置期間が終了すれば、そこからさらに第2ステージという方向で考えていきたいと考えています。予算規模的にももう少し大きな研究組織にして、知恵を絞りながら、新しい現象から新しい応用展開へつなげていきたいと思っています。
 
同志社大学通信One Purpose179号掲載