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理工学部の人と研究 vol.8

ドラスチックな電気化学で循環型の資源開発を目指す                 【理工学部 環境システム学科 後藤 琢也 教授】

厄介者の炭酸ガスからダイヤを創製

私たちが吐き出す炭酸ガス(CO2)には、炭素(C)と酸素(O2)が含まれている。これらの元素を分離して選択的に取り出し、例えば炭素は燃料として、酸素は呼吸等に再利用すれば、宇宙空間など限られた世界でも暮らしていけるかもしれない。オリジナルの電気分解技術を活用して、そんな未来志向の研究に取り組んでいるのが後藤琢也教授だ。

「電解質に溶融塩(例えば食卓塩(NaCl)などを加熱溶融したもの)を使っているのがポイントです」。溶融塩は、300~900℃に加熱すると見かけは液体のようになる。この溶融塩に陽極と陰極を入れて、数ボルト程度の電圧をかけることで、通常は不活性ガスとして知られる窒素ガス(N2)などでも容易にイオン化できるなど、陽極・陰極の近傍でドラスチックな非平衡反応場を作り上げることができることを同志社大学の伊藤靖彦理工学部(前)教授が見出した。例えば、電解中の非平衡状態を積極的に利用することで、炭酸ガスを溶融塩中で電解するときにも、炭素原子をゆっくりと凝縮させることで、構造的に安定した黒鉛(グラファイト)を析出できるが、一つひとつの素反応の速度を高めてやれば、炭素の同素体であるダイヤモンドやカーボンナノチューブに近い状態まで相転移することが可能だという。

一方、炭酸ガスからの酸素ガスの分離には、ボロンドープダイヤモンドと呼ばれる、表面に厚さ2μ程度のダイヤモンドを蒸着した電極を使用している。従来、水溶液の電解の世界ではダイヤモンド電極は酸素を発生しにくいというのが常識だったが、溶融塩の中では「1/2 O2+2e-=O2」という特別な電極挙動を示し、酸素原子が結合して酸素ガスのみを発生させるという。研究室で行った実験では、最初の20分で酸素濃度は1,000ppm、1時間では4,000ppmを超える結果を得られた。「実用化には時間がかかるかもしれませんが、原理実証はできています。循環型社会に向けて、夢のある研究だと思いませんか」と後藤教授は笑みをこぼす。
 

 

ターゲット元素を抜く、分ける、並び替える… 未来の地球環境を守る夢の研究シーズ

では、固体の場合ではどうだろうか。今、青色発光ダイオードの材料としてガリウムナイトライド(GaN)など次世代の半導体が注目されているが、それらの多くは希少で容易に手に入らないことも多い。そうではなく、「ありふれた砂や土から石英など酸化シリコン(SiO2)を取り出し、それらを使って鉄やアルミニウムの化合物半導体(シリサイド)を合成できないかと考えています」。金属の電解採取は、それぞれの元素が持っている電解に必要な電位差を利用し、陰極上に目的の金属イオンを析出する方法が一般的だ。このとき、秩序だった構造と乱雑な構造の金属を組み合わせることで、得られるエントロピー(物体や熱の混合度合)は大きくなる。簡単に言えば、ある元素をエネルギー的に不安定な状態にしてやることで、固体から任意にターゲット元素を抜いたり分けたりすることが可能になるというわけだ。

今年度、後藤教授はJST:革新的研究開発推進プログラム(ImPACT)「核変換による高レベル放射性廃棄物の大幅な低減・資源化」の研究代表者に選ばれた。現在、原子力発電等で使用された核燃料は再処理された後、ガラスと一緒に溶かし混ぜた「ガラス固化体」として地中深く埋められるが、放射能レベルの高い核種はその半減期が何千年、何万年と非常に長いため、保管場所の確保が難しい。「これでは将来に対してあまりに無責任ではないでしょうか」。例えば、パラジウム(Pd)やジルコニウム(Zr)など長寿命の元素を溶融塩の非平衡反応場の中で選択的に電解分離し、廃棄物そのものを無害化する…。あるいは、廃棄物の中から有用な酸化シリコンなどを回収・再利用できれば、今まで処分に困っていたものが宝の山に生まれ変わるかもしれない。私たちが直面しているエネルギー問題の解決につながる研究で、世の中の注目度も高まりつつある。
 

Boys, be ambitious!その場資源利用技術で宇宙開発を視野に

強力な永久磁石は、その結晶構造の向きを揃えることで、大きな磁気スピンモーメントを引き出している。そのためには、ネオジウム(Nd)やサマリウム(Sm)といった高価な希土類が必要だ。「溶融塩の電解技術で固体の原子配列を操作すれば、希土類を使わずに新しい物性、すなわち強磁性を発現させることが可能です」。後藤教授のこうした技術シーズは、NEDO「次世代自動車向け高効率モーター用磁性材料技術開発/レアアースを使わない新磁石の開発/電気化学法によるFeNi超格子粉末合成」プログラムに採択された。現在、自動車メーカー等との産学連携で研究を進めている。磁石はハイブリッド車の回生モーターを始め、様々な端末機器、その他産業用途に幅広く利用されている。将来、身近な鉄やアルミニウム等から安価で高品質な磁性材料が開発できれば、これまでの輸入材料に依存したモノづくりの仕組みは大きく変わっていくに違いない。

今、宇宙開発の分野において、目の前にある資源を有効活用する「その場資源利用技術(In-Situ Resource Utilization)」が俄かに脚光を浴びている。電気分解の力で、炭酸ガスを酸素に戻したり、砂から鉄やコンクリートを作り出したり…。後藤教授が取り組む研究は、今まさに宇宙へ飛び出そうとしている。「鉄腕アトムの時代、科学は万能で、多くの人たちに夢を与える存在でした。今度は、私たちが社会や学生たちに科学の素晴らしさを伝える番です」。そう語る後藤教授の眼は希望に満ち、きらきらと輝いている。
 
同志社大学リエゾンオフィスニューズレター「LIAISON」 vol.48 掲載
 
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後藤 琢也(ごとう たくや) 理工学部 環境システム学科 教授

主な研究内容は、電解技術など電気化学プロセスを活用した機能性材料の創製、熱エネルギーの電気エネルギーへの高効率変換等。今まで見向きもされなかった炭酸ガスや砂などに注目し、独自の手法を使ってダイヤモンドやシリコン、宇宙開発に必要な資源まで作り出そうと考えている。趣味はスポーツ。以前は、毎月1,000kmを自転車で踏破したことがあるというアスリート。現在の楽しみは自然鑑賞で、京都の美しい花鳥風月を愛でるのが研究の合間の息抜きだとか。